行政への届出を自動化するか — 自分で作るか、対応ソフトを選ぶか
「社会保険の届出も、補助金の申請も、自動でできませんか」と聞かれたとき、答えを「API があるか」で探すと行き止まりになります。決めるのは、その仕事をどこに任せるかです。
決めるのは「作るか」ではなく「どこに任せるか」
| 道 | こういうときに選ぶ | 最初に確かめること |
|---|---|---|
| 自分で API を呼ぶ | 出す口が公開されていて、件数が多く、社内システムに元データがある | 電子証明書を用意できるか。専用アプリの導入が要らないか |
| 対応ソフトに任せる | 届出が制度どおりで、様式も毎年変わる | その製品が提出への対応を明記しているか |
| 手前まで機械にする | 出す口が無い、または年に数回しか出さない | 様式が公開されているか。一括で出す口があるか |
3 つ目を「妥協」と読まないでください。行政の届出は様式が先に決まっているので、内容を作る工程は最初から機械に向いています。残るのは提出の一手です。
届出の種類で答えが変わる
| 出したい届出 | 出す口 | 決め方 |
|---|---|---|
| 社会保険・労働保険 | e-Gov 電子申請に公開 API があり、申請を出せる | 人事労務のクラウドサービスが提出まで組み込んでいる。まず製品を探す |
| 税務申告(国税・地方税) | 国税は読み取りのみ。地方税は対応ソフト開発者向けに申込制 | 対応ソフトを選ぶ。地方税は対応ソフトの一覧が公開されている |
| 補助金 | 補助金情報を読む API はあるが、申請は出せない | 探す工程だけ自動化する。申請は画面で出す前提に置く |
| 自治体への申請 | 外部の開発者に向けた公開 API は見当たらない | 提出は画面。提出後のデータの取り出しに範囲を絞る |
同じ「行政への届出」でも、4 行で答えが違います。先に決めるのは手段ではなく、どの届出の話をしているかです。ここを曖昧にしたまま開発会社に相談すると、見積もりが「調査」から始まります。1 件ずつ調べた根拠は 役所への届出は自動化できるか に、各システムの欄は RenkeiMap の調査記録 に出典つきで置いてあります。
「手前まで」で何が減るのか
| 工程 | 機械にできるか | 前提 |
|---|---|---|
| 様式に何を書くか調べる | できる | 様式と項目が公開されている |
| 項目を埋める | できる | 元データが社内システムにある |
| 内容を点検する | 一部できる | 必須と桁の決まりが様式に書かれている |
| 提出する | 出す口がある届出だけ | 電子証明書・アカウント・対応ソフト |
| 控えと結果を保管する | できる | 画面から書き出せる形式がある |
5 行のうち提出の 1 行だけが、出す口の有無で決まります。残りの 4 行は、出す口が無い届出でも機械にできます。 内容証明のように、決まった雛形をアップロードする方式であれば、雛形を作る工程は自動化できて、提出だけ人がやる形になります。
費用は 3 層に分かれ、行政ではもう 1 つ増える
行政の届出には、この 3 層のほかに制度側の手続きの費用が乗ります。電子証明書の取得と更新、GビズID のアカウント作成、二要素認証に使うスマートフォン、対応ソフトの年額。どれも公開価格を調べれば分かりますが、連携の見積もりには入っていないことが多いので、稟議の前に足しておきます。
そして 3 層のうち一番読みにくい「作る人」の層は、行政では制度改正のたびに戻ってきます。様式が変わると、埋める処理も直ります。対応ソフトを選ぶ道が有利なのは、この保守を製品側が引き受けるからです。
こう決める — 届出ごとの手順
| 順 | 手順 | こう判定する |
|---|---|---|
| 1 | 自動化したい届出を 1 つに絞り、年間の件数と、いま誰が何分かけているかを数える | 年に数回しか出さない届出は、自分で作る対象から外す |
| 2 | その届出に出す口があるかを確かめる(社会保険・税務・補助金・自治体のどれか) | 出す口が無いと分かっても止めない。工程を分けて 3 へ進む |
| 3 | 提出まで対応を明記した市販ソフトがあるかを探す | 明記があれば、自分で API を呼ぶ案は捨てる。保守も相手に移る |
| 4 | 出す口も対応ソフトも無い届出は、様式を埋めるところまでに範囲を狭める | 様式が公開されていれば埋める処理は作れる。提出は人の一手として残す |
| 5 | 提出後の控えと結果を、どの形式で社内に戻すかを決める | 書き出せる形式が無い届出は、この工程も人の作業として見積もる |
2 番目で「無い」と分かっても、そこで終わりにしないのが行政手続の勘所です。 様式が公開されているという行政だけの条件があるので、範囲を狭めれば、減る手間のほうが先に残ります。