AI の学習が原則合法とされる根拠は何条か
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この AI に社内の情報を入れてよいかでは、規約の言葉で製品を判断しました。その手前に、そもそも学習が法で許されているのかという問いがあります。
「日本では AI の学習は原則合法」という説明を、よく見かけます。
根拠として条文の番号まで挙げられることは少なく、条件が付いていることはもっと語られません。原文を読むと、条件は 2 つあります。
文化庁の審議会がまとめた整理を読みました。
原則と、2 つの条件
根拠として挙げられるのは、著作権法 30 条の 4 です。思想や感情を自ら享受すること、または他人に享受させることを目的としない利用について、許諾を得なくてよい場合を定めています。
情報解析のために使う場合は、条文がその典型例として挙げています。整理はこう書いています。同条第 2 号でこの典型的な例として示されている。
条件 ① 目的が重なると、使えない
| 何が書かれているか | 整理の言葉 |
|---|---|
| 「享受」とは | 著作物を見たり読んだりすることを通じて、知的・精神的な欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為かどうか、という観点から判断される 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文著作物等の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為であるか否かという観点から判断されることとなる出典を開く確認 2026-09-23 |
| 目的が重なる場合 | 主な目的が享受でなくても、同時に享受の目的もあるような場合には、この定めの適用はないものと考えられる 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文同時に「享受」の目的もあるような場合には、同条の適用はないものと考えられる出典を開く確認 2026-09-21 |
| 重なる例 ① 追加学習 | 学習データに含まれる作品の表現の全部または一部を、意図的に出力させることを目的とした追加的な学習 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文意図的に、学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を出力させることを目的とした追加的な学習出典を開く確認 2026-09-23 |
| 重なる例 ② RAG | 作品の表現の全部または一部を生成 AI で出力させることを目的に、作品の内容をベクトル(検索に使う数値の列)に変換したデータベースを作る 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文著作物の創作的表現の全部又は一部を、生成AIを用いて出力させることを目的として、これに用いるため著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する出典を開く確認 2026-09-23 |
追加学習は、できあがったモデルに少量のデータを追加で覚えさせることです。RAG(検索拡張生成)は、整理の言葉では、作品を含む対象データを生成 AI で検索し、その結果の要約などを行って回答を作る手法です。 出典を開く確認 2026-09-23文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文
生成AIによって著作物を含む対象データを検索し、その結果の要約等を行って回答を生成する手法
ここが、短い説明でいちばん落ちる部分です。「学習だから合法」ではなく、「享受の目的が無い場合に限って」という条件が付いています。
実務に置き換えると、元のコードや文章の表現を、そのまま人に見せたり使わせたりする目的がこれにあたりえます。他社の技術書や他人のコードを RAG に入れて、元の文章をそのまま回答させる作りは、表の例 ② に近づきます(どちらも原文の言葉ではなく、当てはめです)。
条件 ② 量の多さは、それだけでは理由にならない
| 心配されがちなこと | 整理の言葉 |
|---|---|
| 大量に学習したこと | 複製等を行う著作物の量が大量であることをもって、限度を超えると評価されるものではないと考えられる 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文「必要と認められる限度」を超えると評価されるものではないと考えられる出典を開く確認 2026-09-21 |
深層学習が大量のデータを要することを踏まえた整理です。つまり判断されるのは量ではなく目的です。
「何万件も学習させたから違法だろう」という心配と、「享受の目的が混じっていないか」という心配は、別のものとして扱う必要があります。
学習の後 — 出力が既存の作品に似たとき
ここまでは学習の話です。整理は、生成 AI と著作物の関係を 2 つの段階に分けています。 出典を開く確認 2026-09-23文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文
大きく「開発・学習段階」と「生成・利用段階」に分けられる
| 何が書かれているか | 整理の言葉 |
|---|---|
| 侵害になる条件 | 生成・利用段階でも、既存の著作物との類似性及び依拠性が認められれば、権利者は差止めや損害賠償を請求しうる 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文既存の著作物との類似性及び依拠性が認められれば、当該既存の著作物の著作権者は、生成物の生成行為や利用行為が、既存の著作物の著作権侵害に当たるとして、当該行為の差止請求や損害賠償請求を請求し得る出典を開く確認 2026-09-23 |
| 学習していた場合 | 使った人がその作品を知らなくても、生成 AI がその作品を学習していたなら、似た生成物は通常、依拠性があったと推認され、AI 利用者による著作権侵害になりうる 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが、当該生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと推認され、AI利用者による著作権侵害になりうると考えられる出典を開く確認 2026-09-23 |
| 例外 | 学習に使った作品の表現が出力されないことが技術的に担保されている場合 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文開発・学習段階において学習に用いられた著作物の創作的表現が、生成・利用段階において生成されることはないといえるような状態が技術的に担保されているといえる場合出典を開く確認 2026-09-23 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文依拠性がないと判断される場合はあり得ると考えられる出典を開く確認 2026-09-23 |
| 担保の例 | 学習に使った作品と表現が共通した生成物が出ないよう、出力の段階でフィルタリングを行う措置など 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文学習に用いられた著作物と創作的表現が共通した生成物が出力されないよう出力段階においてフィルタリングを行う措置出典を開く確認 2026-09-23 |
| 例外への異論 | そうした措置があっても依拠性は否定されず、利用者の過失が否定されるにとどまる、という意見もあった 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文このような措置が取られていたとしても依拠性は否定されず、AI利用者の過失が否定されるにとどまる、といった意見があった出典を開く確認 2026-09-23 |
類似性は、生成物が既存の作品と表現の上で似ていること。依拠性は、既存の作品をもとにして作られたことです。「推認される」とは、ほかの事実から推し量って、そうだったと認められることです。学習データの 1 つの文書にしか無い文章でも出力に出たという実験の報告(AI に入力した内容が、なぜ原文のまま出うるのか)と合わせると、「その作品を知らなかった」だけでは安心できません。「学習は合法」と「出力を使って問題ない」は、別の段階の話です。
この文書の位置づけ
| 項目 | 文書自身が書いていること |
|---|---|
| 拘束力 | この考え方自体が法的な拘束力を有するものではない |
| 確定性 | 現時点で存在する特定の生成 AI やこれに関する技術について、確定的な法的評価を行うものではないことに留意する必要がある 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文確定的な法的評価を行うものではないことに留意する必要がある出典を開く確認 2026-09-21 |
| 今後 | 必要に応じてこの考え方の見直し等の必要な検討を行っていくことを予定している 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文必要に応じて本考え方の見直し等の必要な検討を行っていくことを予定している出典を開く確認 2026-09-21 |
行政の整理であって、裁判所の判断ではありません。文書自身がそう書いています。
社内で説明するとき、この 3 行を添えるかどうかで受け取られ方が変わります。「国が合法と言っている」と伝えると、後で整理が変わったときに説明が立たなくなります。
社内でどう説明するか
| 言い方 | 評価 |
|---|---|
| 「日本では学習は合法です」 | 条件が落ちている |
| 「作品を見せたり使わせたりする目的(享受)でない利用に限り、許諾なく使える定めがあります」 | 条件が入っている |
| 「量が多いこと自体は問題にならないと整理されています」 | 量の心配への答えになる |
| 「行政の整理であって、裁判所の判断ではありません」 | 後から変わりうることが伝わる |
| 「学習が許されることと、出力が既存の作品に似たときの侵害は、別に判断されます」 | 出力の段階の注意が落ちない |
| 「他人の作品を、元の表現を出させる目的で追加学習や RAG に入れません」 | 目的の条件が、組むときの決まりになる |
| 「出力は、既存のコードや文章と一致していないか確かめてから使います」 | 出力の段階の注意が、使うときの手順になる |
聞き方はこうなります。社内の法務や委託先に対して聞く形です。
「この使い方は、元の作品の表現をそのまま人に見せる目的が、同時に入っていませんか。学習に使ったものを、そのまま人に見せる用途にも使う予定はありますか。」
ここから先は調査の詳細です(約 2 分)。上のカードだけで決められます。調べた 1 件ずつの記録は IT連携マップ に、出典 URL と調査日つきで公開しています。
調査の詳細
調べた範囲は、文化審議会著作権分科会の法制度小委員会がまとめた整理 1 本です。対象はその文書に書かれている内容で、条文そのものの解釈を独自に行ってはいません。文書を保存し、引用はすべて保存した原本に原文のまま在ることを確かめています。調べていないことは、裁判所の判断です(この整理の公表時点で、生成 AI と著作権について確定した判断は示されていません)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 出典 | 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会の整理(令和 6 年 3 月 15 日) |
| 対象 | 権利制限規定の説明、30 条の 4 の要件、生成・利用段階の侵害の要件、生成 AI の技術的な背景についての記述 |
| 引用 | 24 本(すべて保存した原本に原文のまま在ることを確認) |
| 確認時期 | 2026 年 9 月 21 日 |
| 含まれないもの | 裁判例、条文そのものの独自解釈、他国の制度 |
この整理は令和 6 年のものです。文書自身が見直しの可能性に触れているので、実際の判断が必要な場面では、最新の状況を確かめてください。ここで扱っているのは、条件が付いているという構造であって、個別の事案の結論ではありません。
整理が書いている、前提の言葉と生成 AI の仕組み
整理は、法的な検討の前提として、言葉の定義と生成 AI の仕組みを次のように書いています。
| 項目 | 整理の言葉 |
|---|---|
| 著作物 | 思想や感情を創作的に表現したもので、文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの(著作権法の定義)。文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう出典を開く確認 2026-09-23 |
| 著作者 | 著作物を創作する者(著作権法の定義) |
| 生成 AI とは | 人の言葉や画像による指示を受けて、文章や画像などを生成する AI 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文人間の自然言語や画像などによる指示を受け、文章や画像等の様々なコンテンツを生成するAIであり、これがいわゆる生成AI出典を開く確認 2026-09-23 |
| 開発(学習) | 大量で多様なデータを解析してパターンや傾向を学習させ、指示に対して的確な出力を予測できるように調整する 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文大量かつ多様なデータを情報解析し、データから読み取れる多数のパターンやルール、傾向等を学習させ、指示に対して、的確な出力を予測できるように調整を行うことで進められる出典を開く確認 2026-09-23 |
| 文章の生成 | ある単語に続く単語の出現確率の計算を繰り返して生成しており、通常、学習データの切り貼りで生成するものではないとされる 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文ある単語に続く単語の出現確率を計算することを繰り返すことで生成が行われているものであり、通常、学習データの切り貼りによって生成を行うものではないとされる出典を開く確認 2026-09-23 |
| 使う人から見た学習データ | 使う人が知りえなかった著作物を含む大量のデータで開発された生成 AI を使う場合もある 文化審議会著作権分科会 法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)原文開発の際に、AI利用者が知り得なかった著作物を含む大量のデータを用いている生成AIを利用する場合もあり出典を開く確認 2026-09-23 |
「通常、切り貼りではない」は仕組みの説明です。学習データの一部がそのままの並びで取り出された実験の報告は、AI に入力した内容が、なぜ原文のまま出うるのか に置いています。
学習に使われないようにする手段については 学習を止める手段は効くのか に置いています。